遷延性意識障害,高次脳機能障害,脊髄損傷などの重度の後遺症(後遺障害)を負った方やそのご家族は、将来にわたり、付添介護や病院での治療を必要とする場合があります。
交通事故により重度の後遺障害を負った被害者やご家族の方々にとって、特に問題となりやすい「将来介護費・将来治療費」の損害項目についてご説明します。
1 将来介護費(付添費)
将来介護費とは、交通事故の被害者に介護が必要な後遺障害が残った場合に、症状固定(これ以上治療を尽くしても症状が改善する見込みがない状態)後において付添介護に要する費用のことを言います。
(1)将来介護費の算定方法
将来介護費は、
介護費用の日額 × 365日 × 介護費用が認められる期間の年数に対応するライプニッツ係数) |
の計算式で算定されます。
介護費用の日額は、家族が介護する場合には日額8,000円、介護士などの職業付添人が行う場合には実際に支払った介護費用が基準となりますが、具体的な事情により増減があります。
介護費用が認められる期間は、簡易生命表に基づき算定される被害者の平 均余命が原則です。
例えば、被害者が症状固定時30歳の男性(平均余命は約50年)、家族が介護した場合の将来介護費は、
日額8,000円 × 365日 × 18.2559(50年のライプニッツ係数) = 5330万7228円 |
という非常に大きな金額となります。
(2)将来介護費を請求する場合の問題点
将来介護費は、将来において発生する費用であり、損害額が大きくなりなりやすいなどの理由から、加害者(保険会社)側も、介護の必要性や日額・期間などについて大きく争い、将来介護費の総額を減額しようとしてくることが予想されます。
問題となりやすい点としては、
- そもそも介護が必要かどうか
- 介護費用の日額(家族の場合8,000円)の妥当性
- 介護の主体(家族か、職業付添人か)
- 介護の場所(在宅介護か、施設か)
- 介護の期間(平均余命まで生存する可能性に乏しい場合)
などが考えらます。
将来介護費用について、適切に主張立証を行い、適正な損害賠償を受けるためには、専門的な知見が必要です。
2 将来治療費(症状固定後の治療費)
交通事故により傷病を負った被害者は、傷病の治療のための治療費とその関係費用を負担することとなりますが、治療費が損害として認められるのは、原則として、傷病が治癒または症状固定(これ以上治療を尽くしても症状が改善する見込みがない状態)するまでです。
すなわち、症状固定後に入通院に要した治療費(=将来治療費)は、交通事故の賠償の対象としては認められないのが原則ですが、症状の内容・程度・治療の内容により必要性や相当性が認められる場合には、例外的に賠償の対象として認められることもあります。
- 植物状態(遷延性意識障害など)になったときなど、生命を維持するうえで将来治療費を支払う必要性・蓋然性が認められる場合
- 治療によって症状の悪化を防止する必要性が認められる場合
- 症状固定後も強い身体的苦痛が残り、苦痛を軽減するために治療の必要性が認められる場合
などには、例外的に将来治療費が認められる可能性が高くなります。
また、このような場合には、将来治療費に関連する将来の通院交通費や将来の雑費が認められる場合もあります。
いずれにせよ、将来治療費について、適切に主張立証を行い、適正な損害賠償を受けるためには、専門的な知見が必要です。