ここでは、遷延性意識障害に関する実際の裁判例をいくつかご紹介します。
1 大阪地判平19・7・26交民40巻4号976頁・自保1721号8頁
<事案>
後遺障害の内容 :遷延性意識障害
後遺障害等級 :1級1号
年齢・性別・職種:7歳・男性
賠償額 :総額1億4519万円
<判例の概要>
遷延性意識障害につき、介護者である近親者が67歳になるまでの11年間について介護費日額1万6000円、平均余命までの59年間は職業介護人2名で日額2万4000円の介護費用が認められたケース
<本事件のポイント>
若年の被害者につき、成人1名での移動介助や入浴介助は不可能で、四肢拘縮を予防するリハビリも重労働であり、寝たきりで常に褥創(床ずれ)の危険にさらされ、夜間も定期的に体位交換やおむつ交換を行う必要があるうえ、てんかん様の発作をきたすことから常時看視する必要があり、原告の介護に伴う周囲の負担は物理面でも精神面でも相当大きい旨判示し、長期間にわたって職業付添人2名も含めた高額の介護費用が認められた点がポイントと言えるでしょう。
2 神戸地判平29・3・30自保ジャーナル1999号1頁
<事案>
後遺障害の内容 :遷延性意識障害
後遺障害等級 :1級1号
年齢・性別・職種:32歳・男性・IT関連専門学校のティーチングアシスタント
賠償額 :総額1億4519万円
<判例の概要>
事故時32歳、IT関連専門学校のティーチングアシスタントの男性が、自動二輪車で直進中左折してきた対向乗用車に衝突され、1048日入院を含め約3年5か月間入通院後、遷延性意識障害で自賠責別表第1の1級1号認定を受けた事案について、介護用居宅の新築費用や車いす費用等が損害として認められた事例
<本事例のポイント>
本事例のポイントの第1点は、具体的状況に応じて高額の介護費用(被害者本人の傷害慰謝料450万円、後遺障害慰謝料2800万円のほか、父母についても慰謝料各350万円を認め、既払金1億6700万円余を控除し、総額で3億9095万円余を認容)を認めた点です。
本事例のポイントの第2点は、介護用居宅の新築費用についても損害と認めた点にあります。本件では、介護を予定する居宅は老朽化が進み、リフォーム工事ではかえってコストがかかるため新築するのが相当であり、新築された介護用居宅についてみても、これが介護のために必要な範囲で設計されたものであることが明らかで、その費用も著しく高額とはいえないという具体的事情の下での判断ですが、主張の組み立て方によっては新築費用も損害と認められる可能性はあると言えるでしょう。