1 損害賠償の概要
遷延性意識障害は、常時介護を要する状態になってしまった場合であるため、損害賠償額は、自賠責保険や自動車保険からの既払分を差し引いても、2~3億円となることは珍しくなく、裁判所で認定される金額も一般に非常に高額となることが多いと言えます。
以下、問題となる損害項目について解説します。
2 問題となる損害項目
⑴ 医療費・逸失利益・慰謝料の高額化
遷延性意識障害の状態となられた方については、常時介護が必要となる ため、医療機関に入所して介護を受けることができる場合、医療費は高額になります。
また、労働能力喪失率は100パーセントとなるため、逸失利益も高額となります。
さらに、症状固定までの入院期間が長期に及ぶため傷害慰謝料も比較的高額になるほか、後遺障害慰謝料についても高額な本人分のほか、両親等の近親者固有の慰謝料も認められるケースがあります。
例えば、事故当時32歳の男性が自動二輪車で直進中、対抗乗用車に衝突されて遷延性意識障害と認定された事案(神戸地判平成29年3月30日自保1999号1頁)では、被害者本人に傷害慰謝料450万円、後遺障害慰謝料2800万円のほか、長期にわたって介護の負担を負う両親についても慰謝料各350万円が認められています。
⑵ 将来の介護費用
遷延性意識障害において特に問題となるのは、将来の介護費用です。
①自宅での介護費用
自宅での昼夜24時間にわたる介護は、近親者にとって大変な負担 となります。そのため、近親者の介護には限界があり、負担軽減のため職業介護人を雇う必要があります。
最も金額の高いとされる弁護士基準のベースとなっている通称「赤い本」では、将来介護費について、医師の指示または症状の程度により必要があれば、被害者本人の損害として認めるとし、職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円と認めるべきとされていますが、裁判例においては、事案の特性を踏まえ、これより高い金額が認められる場合もあります。
②自宅や自動車の改造費
自宅での介護となる場合には、まず自宅の居室、玄関、廊下、ドア、 浴室等について介護仕様に改造する必要があります。裁判例では、これらが被害者の介護に必要かつ相当といえる場合に損害として認められていますが、家族の便益にも供される場合には一定の減額がなされることもあります。
また、介護のために必要な土地を購入して介護用住宅を建築した場合も、在宅介護用の住宅取得費用と通常の住宅取得費用の差額について、事故に起因する損害と認められることもあります。
さらに、車両の改造費についても、必要かつ相当と認められる費用については、事故に起因する損害として認められる場合があります。
③介護用品その他消耗品の費用
介護用品その他の消耗品についても、必要かつ相当と認定されれば、平均余命までの購入費用やレンタル費用が損害として認められます。
裁判上認められた介護用品としては、自宅改造で設置したスロープ、 介護ベッド、 介護リフト、浴室リフト、シャワーキャリー等の各設置費用及びそれらの保守管理費用、蘇生バッグ、痰吸引器及び吸入器、パルスオキシメーター及び血圧計等の医療機器の備置き費用、空気清浄機、紙おむつ、尿取りパッド等の購入費等が挙げられます。
このように、一口に「将来の介護費用」といっても、介護の具体的内容・状況に応じて損害賠償の内容も変わってきますので、まずは弁護士にご相談ください。