ここでは、個々の損害項目についてではなく、横断的な問題点について取り上げます。
1 成年後見制度の申し立ての必要性
後遺症(後遺障害)を負った人が未成年の場合は、両親が法定代理人として弁護士への依頼や損害賠償交渉を行えます。しかし、後遺症を負った時点でご本人が成人されている場合、ご本人では損害賠償の交渉をすることや弁護士への依頼をすることができないため、成年後見人が選任される必要があります。
一般的には、被害者の家族または親族が成年後見人に選任されることが多いと言えますが、弁護士が成年後見人となることにより、各種手続を迅速に進め、損害賠償請求についても適正額を取得できる可能性が高まります(詳しくは、成年後見制度についてをご参照ください)。
2 平均余命の問題
通常の損害賠償金額の計算方法の場合、被害者の平均余命(ある年齢の者がそれ以後生存し得る平均年数)までの損害を対象とします。
しかし、交通事故で植物状態となった方の推定余命を口頭弁論終結時から10年間とした原判決を支持する最高裁判決や、それを支持する有力学説などがあることから、加害者側が「遷延性意識障害者の余命は健常人の平均余命より短い」などと主張してくることがあります。
裁判例ではこの余命制限を採用しないというものが多数を占めていますが、しっかりと理論的に反論できるように、弁護士に依頼することが必要と言えます。
3 定期金による損害賠償
⑴ 定期金による損害賠償について
重度の後遺症(後遺障害)を負った被害者の方が口頭弁論終結前に死亡した場合、死亡時点以降の介護費等は不要になる以上、死亡時点以降の介護費用等は損害として認められない旨の最高裁判決があります(最判平成11年12月20日民集53巻9号2038頁)。これを受け、実務上は、一括での支払いではなく、定期金の形での支払い方法も認められています。
しかし、原告が一時金賠償の方法での賠償しか求めていないのに対して、裁判所が定期金賠償を認めてもよいかどうかという問題があります。
この点、下級審判例では、原告が請求していなくても定期金賠償によることを認める傾向にあります。
原告側としては、一時金の形での賠償を求めるのが通常ですが、場合によってはこのような解決方法もあり得ると言えるでしょう。
例えば、定期金による賠償を認めた東京高判平成25年3月14日判タ1392号203頁は、
①現時点で被害者の余命の的確な予想が困難であること、
②本件で平均余命を前提として一時金で介護費用の賠償を認めた場合には賠償額に看過できない過多あるいは過少を生じ、かえって当事者間の公平を著しく欠く結果を招く危険があること、
③賠償義務を負う損保会社の企業規模に照らして、将来にわたって履行が確保できるといえることなどを根拠に、定期金による賠償を認めています。
⑵ 定期金による損害賠償のメリットとデメリット
ア 主なメリット
- 被害者の余命などの不確定要素があるため、将来の介護費用を的確に認定することは不可能です。そのような場合、定期金賠償の方法によれば、現在支払っている(あるいは見込まれる)介護費用を基準に認定することができ、将来の介護費用の認定の困難さを回避できます。
- 裁判所の認定よりも長生きしたため賠償費用が足りなくなったり、逆に早期に死亡したため家族が利得したりといった不公平を回避できます。
- 定期金賠償の方法であれば、将来介護費用に変動が生じた場合 は、その時点で確定判決の変更を求めることができ、その時点ごとの被害者の生活状況にふさわしい賠償が可能となります。
イ 主なデメリット
- 数十年後に損保会社が破綻しないとは断定できないため、賠償義務者の資力が悪化した場合には被害者がその危険を負うことになります。
- 定期金賠償は、将来の事情が不確かなまま、将来の変更がありうることを前提とする解決方法であるため、紛争解決の一回性・終局性が確保できません。
- 被害者としては、一度にまとまった金額を手にし、気持ちに成立を付けたいというのが一般的な感情でしょうが、定期金賠償は、そのような一般的感情に反する結果となります。
いずれの方法が被害者の方にとって有利なのかは一概に言えず、ケースごとによって判断するほかありませんので、どのような判決を求めるかは弁護士と相談しながら進めていくべきでしょう。
なお、遷延性意識障害となった方が最終的に死亡した場合の損害賠償については、「死亡事故の損害賠償の種類」をご参照ください。