高次脳機能障害の損害賠償について

ここでは、交通事故損害賠償実務における高次脳機能障害に関してよく問題となる重要な損害項目について説明します。

 

1 問題となりやすい損害の項目

(1)逸失利益

高次脳機能障害として等級が認定される場合には、後遺障害等級1級1号、2級1号、3級3号、5級2号、7級4号、9級10号という等級が認定されることから、逸失利益(事故がなければ将来的に得られたであろう生涯賃金のことをいいます)としては他の後遺障害に比べると比較的高額になる傾向があります。

もっとも、被害者ご本人の高次脳機能障害の現状を詳細に主張した上で、等級ごとに通常認められる労働能力喪失率よりも高い喪失率が認定される可能性があることから、その被害者の方の実情を詳細に立証していくことが大切になってきます。

 

(2)慰謝料

高次脳機能障害では、定型的な慰謝料の基準にとどまることなく、障害の内容によっては、被害者ご本人だけでなく、配偶者、子ども、ご両親等が慰謝料を請求することができる可能性があります。

当弁護団では、個々の事案の特徴を立証することで慰謝料の可能な限りの増額を目指しております。

 

(3) 将来介護費

被害者の高次脳機能障害の内容が重篤な場合には、将来にわたって介護を要するケースが多くあります。この場合、被害者としては加害者に対して将来介護費を損害として請求していくことになりますが、その金額は極めて高額になるため、訴訟においても熾烈な争いになることがままあります。

将来介護費では、まず①介護の必要性が問題となり、必要がある場合には②介護の主体(態様)、介護を行う場所、介護期間等が問題となります。

①介護の必要性に関しては、被害者の後遺障害の内容、これにより制限を受けている日常動作の程度が考慮されたうえで判断されます。高次脳機能障害との関係では、日常生活動作は自立していても、声かけや看視等を中心とした付添いが必要なケースがある場合には、後遺障害等級3級以下でも将来介護費の必要性があると判断している裁判例もあります。

②のうち、介護の主体としては、近親者による介護によるのか、それとも職業付添人による介護による必要があるのかという問題があります。例えば、近親者が平日働いているようなケースでは、平日についてのみ職業付添人の必要性が認め、休日は近親者による付添いを認めるなどその実態に即した判断がなされる傾向にあります。

介護を行う場所の問題としては、在宅介護によるのか、施設介護によるのかという問題ですが、一般的には在宅介護の方が施設介護よりも費用が高額になるために訴訟でも頻繁に争われることになります。

このほかにも、将来において介護態勢に変更が生じる場合(近親者による介護から職業付添人による介護に変更したり、施設介護から在宅介護に変更するケースなど)には、その変更の蓋然性を立証していく必要があります。

将来の介護費については、「将来介護費・将来治療費」というページもご参照下さい。

 

(4) その他

将来介護費のほかにも、自宅改造費、自動車改造費、介護用品代、将来治療費などついては、その必要性が立証されれば損害として認められることになりますが、いずれも法的問題点がありますので、これらの問題でお悩みの場合にはご相談下さい。

なお、高次脳機能障害が問題となるケースでは、そもそも事故によって高次脳機能障害になったといえるのか、また、事故によって高次脳機能障害があるといえたとしてその後遺障害等級は何級に評価できるのかという点が問題にあるケースも非常に多いです。この問題については、「高次脳機能障害の該当性・等級認定における問題点」のページ をご参照ください。

 

2.高次脳機能障害の場合の損害例

高次脳機能障害の事案では、賠償額が非常に高額となるケースが少なくありません。

例えば、被害者が24歳・女性・兼業主婦のケースにおいて、高次脳機能障害として5級2号(併合4級)が認定された千葉地裁平成23年8月17日の判決では、以下のとおり、合計9362万7844円の損害が認められています。

 

治療費204万6528円(任意保険会社既払い金を含む)

入院雑費:31万2000円(入院208日)

付添看護費:135万2000円(入院208日)

入通院付添交通費:74万3180円

器具購入費及び将来の器具費用:112万7329円

休業損害:588万8516円

入通院慰謝料:350万円

後遺障害逸失利益:5528万7032円(労働能力喪失率:92%、労働能力喪失期間:40年)

後遺障害慰謝料:1670万

損害の填補:▲182万8741円(任意保険既払金)

弁護士費用:850万円

合計:9362万7844円

 

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