高次脳機能障害の該当性・等級認定における問題点

1 高次脳機能障害の該当性に関する問題点

自賠責保険において、高次脳機能障害に該当するか否かの判断にあたっては、①意識障害の有無・程度、②画像所見の有無が重要となることは、「高次脳機能障害の診断・認定基準」のページで説明したとおりです。②画像所見の有無について、MRI画像やCT画像によることが自賠責保険における障害認定実務とされており、他の画像検査方法については評価が定まっていないのが現状であることも前記ページにおいて説明しました。

そこで、ここではもう少しこの②画像所見の点を掘り下げて説明したいと思います。

 

○MRI画像

強い磁石と電磁波を使って体内の状態を断面像として描写する画像です。

出血や脳挫傷の存在等、形態的異常を撮影するのに優れていると言われています。

 

○CT画像

X線を発する管球とX線検出器がドーナツ状の架台内を回転しながらデータ収集し、人体の輪切り画像をコンピューターによって再構成する装置によって撮影された画像です。

事故直後の出血量等の推移を見極めるためには迅速性の点でCTが優れているとされています。

 

○MRI及びCT以外の画像検査方法

  • SPECT検査(単光子放射体断層CT)、PET(陽電子放射体断層撮影)
    これらは、放射性同位元素を利用して脳内血流の活性程度を画像化して、機能的異常を把握しようとする検査方法です。しかし、これらの画像では神経軸索そのものを撮影しているものではなく、その断線を直接確認できるものではないことから、その評価は定まっていないところです。
  • 拡散テンソル画像
    MRIの拡散強調画像(DWI)で得られたデータを使って、脳内の神経線維に沿った水分子の拡散の動きを画像化することにより神経線維の状態を推定する検査手法があります。

 

○MRI及びCT以外の画像検査方法に対する評価

自賠責保険から、平成30年5月31日付で公表された高次脳機能障害の認定基準として「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)』では、拡散テンソル画像、SPECT、PET等に関する研究は、現在もなお進行中等の理由などから、これらの検査のみで、脳の器質的損傷の有無、認知・行動面の症状と脳の器質的損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできないとされています

したがって、少なくとも現状の自賠責実務においては、CTMRIによる異常所見の存在を重視されているものといえます。

ただし、裁判例の中には、CT、MRIによる画像所見がない事例において、SPECT検査において脳血流の低下が認められたことなどを勘案し、高次脳機能障害が認定された事案(大阪高判平成21年3月26日・交民集42巻2号305頁)もあります。

 

2 高次脳機能障害等級認定における問題点(留意点)

この点については、自賠責保険では、高次脳機能障害の等級の判断にあたって、高次脳機能を4つの機能に分類(①意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)、②問題解決能力(理解力、判断力等)、③作業負荷に対する持続力・持久力及び④社会行動能能力(協調性等))し、それぞれの喪失の程度に着目し、評価を行うこととなっていることは、「高次脳機能障害の診断・認定基準」のページで説明したとおりです。

そこで、本ページでは、この4能力の低下を示す資料や客観的な検査の重要性について、具体的に説明したいと思います。

 

(1)資料作成の留意点

  • 主治医の意見書
    自賠責調査事務所に提出する資料としては、後遺障害診断書に加えて、担当医の所見を記載する用紙がありますので、被害者本人の上記4能力に関する所見を可能な限り詳細な内容を記載いただくことが大切になります。
  • 家族の日常生活状況の報告書
    ご家族等が作成する資料として、日常生活状況報告書という資料があります。この場合、定型的な質問項目に回答するだけでなく、本人の生活状況を詳細に記載することが適切な等級認定を獲得するために重要となります。例えば、日々の言動、現状での1日の過ごし方、ご家族等の付添いが必要であればそれを必要とする具体的な状況、職場復帰している場合には、職務内容、勤務状況、家族・勤務先の特別な配慮などの事項を詳細に記載することが大切です。
  • 学校生活の状況報告書
    このほか、被害者が学童・学生については、学校生活の状況報告書を提出する必要があり、これについてもなるべく詳細に記載いただくことが肝要です。

 

(2)客観的な検査について

また、上記(1)の各資料を客観的させるために、専門医師による検査を依頼しその結果を提出することも大切になります。

例えば、認知機能に関する神経心理学的検査としては、ウェクスラー成人検査等、記憶機能に関するテストとしては、三宅式ウェクスラー記憶検査(WRS-R)等、遂行機能障害・注意力障害を評価するものとしては、BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)、WCST(ウィスコンシン・カードソーティング・テスト)、心理検査としては、矢田目・ギルフォード性格検査などが有効とされています。

 

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