Archive for the ‘コラム’ Category
将来の付添費⑴ 介護の必要性
交通事故により後遺障害が確定した後に生じる損害として、将来の付添費と言われるものがあります。これは、例えば、植物状態(遷延性意識障害)に陥った場合のように、日常生活における動作を自力でできないとき、将来にわたって付添人による介護を受ける必要性があり、一定の場合に付添費が損害と認められるものです。
では、どのような場合に介護の必要性が認められるでしょうか。
この点、自賠法施行令別表において介護を要する後遺障害と明示されているのは、別表第1(神経・精神系統の障害、胸腹部臓器の障害)の1級(常時介護)と2級(随時介護)のみです。
しかし、裁判実務では、これら以外の後遺障害についても、具体的な後遺障害の内容・程度等から介護の必要性が認められれば、将来付添費が認められています。
具体的には、高次脳機能障害ないし脊髄損傷に関するものや、下肢欠損ないし下肢機能障害に関するものである場合には、将来付添費が認められやすくなります。特に、高次脳機能障害が存する被害者については、身体介護自体の必要性が乏しくても、記憶障害、遂行機能障害、注意障害、判断力低下等の症状が認められれば、介護としての監視・声掛けの必要性があるため、将来付添費が認められやすいと言えます。
このように、「介護の必要性」一つととっても、裁判例を踏まえた判断が必要です。
まずは弁護士にご相談いただければと思います。
弁護士 田 保 雄 三
交通事故と休業損害(1)
交通事故により怪我をしてしまったために仕事を休まなければならない場合には、加害者に対し「休業損害」(交通事故に遭ったために得ることができなかった収入)を請求することができます。今回のコラムでは、「休業損害」について解説します。
・休業損害の算定方法
原則として「収入日額×休業日数」の計算式で算定されます。
・1日あたりの収入額
収入日額は、被害者の方の職業(サラリーマン、自営業者、主婦など)によって異なります(この点は、次回以降のコラムで、被害者の方の職業ごとに取り上げます)。自賠責保険の計算では、原則として「日額5,700円」で算定されます)。症状に応じて、減額される場合もあります。
・休業日数(休業の必要性)
休業したすべての日数について休業損害が請求できるわけではなく、「交通事故の傷病が原因となって休業が必要な日数」に限定して休業損害が請求できます。仕事の内容、症状の程度、医師の診断内容などの事情から、休業が必要であったかどうかが判断されます。傷病の「症状固定日」までの休業分が対象となります。
・重度後遺障害と休業損害
交通事故により重度の後遺症を負った場合、長期にわたって仕事を休業することが多いと思われます。重度後遺症事案では、症状固定日までの日数について休業の必要性が認められ、100%の休業損害が認定される可能性があります。
交通事故により仕事ができなくなり無収入となってしまう方もいます。交通事故の損害賠償にあたり、休業損害が適切に支払われるかは非常に重要な問題です。休業損害について、保険会社の対応に疑問を感じる方は、弁護士にご相談されることをお勧めします。
弁護士 藏田貴之
傷害・後遺障害慰謝料の増額(1)
今回は、後遺障害事例における「慰謝料の増額」をテーマとして、裁判例をご紹介します。
【裁判例】東京地裁平成6年1月25日判決・交民27巻1号113頁
住宅街の道路右側路側帯を歩行中の被害者(女性、症状固定時27才)が、後方から加害車両に衝突され電柱との間に挟まれたことで、右大腿部から右膝にかけての神経損傷による疼痛・放散痛(後遺障害等級12級12号)及び醜状痕(後遺障害等級12級)、右膝関節機能障害等の傷害を負った事案において、加害者が酒気帯び運転であったこと、酒気帯び運転については刑事裁判で有罪が確定しているのに本件裁判では否認し、また加害者が刑事裁判では治療費は全額支払うと述べたのに、被害者の父親が示談書に押印しなかったため治療の支払いを打ち切ったこと、事故によって被害者の結婚も破談となったこと等の事情を考慮し、傷害慰謝料として550万円(治療期間2年8ヶ月・入院日数186日、通院実日数62日)、後遺障害慰謝料として350万円が認められました。
本事案では、裁判基準で算定される標準的な慰謝料額から、約25%程度の増額が認められた事案といえるかと思います(「後遺症を負った場合に請求できる損害賠償」、「後遺障害等級と慰謝料」等のページもご参照下さい。)。
各事案によって事情は様々であり、どのような事情を取り上げるべきかは適切な検討を要しますが、本事案のように、加害者側の対応等により、増額が認められるケースも少なからずあります。当サイトでは無料相談が可能ですので、是非お気軽にご相談下さい。
弁護士 柳田 清史
「個人事業主の休業損害に関する固定費について」
個人事業主の方が被害者となった場合、休業損害の算定の仕方としては、事故前年度の確定申告書の申告所得額をベースにするのが一般的です。
この場合、被害者の方が休業期間中も事業継続のためにやむを得ないいわゆる固定費の出捐を強いられている場合には、先ほどの申告所得額に固定費を加算した金額を請求できることとなります。
固定費と言っても多様な性質のものがありますが、ある固定費を加算することができるかはその支出が将来の事業継続のためにやむを得ない必要があるものかが一つのメールクマールになってくると言われています。例えば、公租公課、損害保険料、地代家賃、減価償却費、従業員給与等は、過去の裁判例で一般的に認められているケースが多いですが、水道光熱費・通信費には裁判例の中でも意見が割れています。
ご自身で判断に迷われる場合には弁護士に一度ご相談下さい。
弁護士 疋田 優
「後遺症」と「後遺障害」
「後遺症」と「後遺障害」の違いをご存知でしょうか。
これらは、時には同じ意味で使用されることもあり、一般の方には非常にわかりにくいのですが、厳密には異なる概念です。
交通事故で人が負傷した場合、治療をしても治らずに、身体に何らかの症状が残存することがあります。これが一般的に「後遺症」と呼ばれるものです。
他方、「後遺障害」という用語は、自動車損害賠償責任保険(いわゆる自賠責保険)法施行令2条1項に規定されています。そこでは、事故による損害を、「死亡」、「介護を要する後遺障害(傷害が治ったとき身体に存する障害)」、「傷害」に区別した上で、それぞれの保険金額が定められています(自賠法施行令2条1項2号)。つまり、「後遺症」のうち、一定の要件を満たしたものを「後遺障害」として等級認定し、損害賠償請求の対象とするという運用がされているのです。
「後遺障害」に該当するか否かは、主治医が決めるわけではなく、最終的には裁判で法的観点から裁判官が判断します。したがって、医師が「後遺症が残る」と述べたとしても、必ずしも補償を受けられる「後遺障害」に該当するとは限らないのです。
もっとも、一般には「後遺症」の方がなじみのある言葉ですし、時に両者は同じ意味で使用されることもあります。そこで、当サイトでも「後遺症」という用語を使用していますが、「後遺障害」の意味で使用するときは、「後遺症(後遺障害)」という形で明示させていただいているところです。
いずれにしても、「後遺障害」に該当するか否かは、医学的知識はもちろん、高度な法的知識が要求される事柄です。したがって、「後遺障害」の等級認定には、裁判に精通した弁護士が関与して手続を進めるべきであると言えるでしょう。
弁護士 田 保 雄 三
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